WEB系エンジニアの業務内容を知っていても、その先のキャリアについて知っている方は意外と少ないです。ずっとコードを書き続けるというイメージを持っている意見も聞いたことがあります。たしかにずっと技術に携わるキャリアもありますが、キャリアアップしていくとそれ以外の業務の比率が高くなります。いざWEB系エンジニアになったとしても、その先のキャリアがどんなものがあるかを知っておかないと、自身が望むキャリアを歩めないかもしれません。そして、WEB系エンジニアへの転職、中途採用の面接では、必ずといっていいほど将来的なキャリア像を聞かれます。そのため、どのポジションが自分のキャリアと合致するのかを見極めておかないとこの質問に適切に答えられません。これらの理由から、事前にどのようなポジションがあるかを把握しておくことは極めて重要です。
マネージャー・シニアの役職
実際に手を動かすエンジニアとして一定の経験と結果を出すと、マネージャー・シニアクラスの役職に昇進します。このクラスの役職は大きく2つにわけられます。1つは人を管理しチームとして成果を出すことを求められるマネジメント職です。もう1つは高い技術力と知見でチームをリードしていくスペシャリスト職です。これらのポジションについて以下で説明します。
プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャーはプロダクトに責任を持ち、成長させて価値を大きくしていくことが求められる役職です。プロダクトを成長させるには多岐にわたるスキルが必要です。
まず、第一に戦略策定の能力が求められます。どのような機能を開発すれば顧客に価値を提供でき、プロダクトを成長させるこことができるのかを考える必要があります。そのために顧客を理解し、その理解をもとに方向性を決めていきます。必要ならユーザーインタビューを行います。
第二に人のコミュニケーション能力が求めらます。プロダクトはチームで開発していくので、メンバーのマネジメントが必要となります。そして、チームメンバーだけでなく、自分の上司や他のチームともコミュニケーションを取る必要があります。そのため、業務のうちミーティングが占める時間は多くなります。
第三に技術力が求められます。マネジメントポジションではありますが、ある程度の技術力がないと、メンバーに適切な指示や要求ができません。また、必要となったら自身も開発に加わることを求められる状況があります。そのため、自分で手を動かせる必要があるのです。
このようにプロダクトマネージャーは複数のスキルを複合的に駆使してプロダクトの成長に貢献していくポジションとなっています。
プロジェクトマネージャー
プロジェクトマネージャーはプロジェクトの遂行に責任を持つ役職です。基本的にはプロダクトマネージャーの業務での対象をプロジェクトに置き換えたものになります。ここで注意してほしいこととして、WEB系企業ではプロジェクトマネージャーのポジションは少ないです。WEB系企業では自社でプロダクトを開発します。そこでの開発プロセスは1、2週間の短いスパンで開発するアジャイルやスクラム開発の手法を取られます。そして、そのマネジメントはプロダクトマネージャーが担います。そうなると必然的にプロジェクトマネージャーのポジションを置く必要がなくなります。このような背景でWEB系企業ではプロジェクトマネージャーのポジションがかなり少なくなっています。SIerや受託系企業では顧客から受ける案件が1つの開発単位であり、それがプロジェクトであるのでプロジェクトマネージャーのポジションがあることが多いです。
エンジニアリングマネージャー
エンジニアリングマネージャーは、エンジニア組織のマネジメントを担い、チームの成長と成功を支える役職です。主な役割は、より強固で持続可能なエンジニアリング組織を構築し、その成長を促進することにあります。そのため、技術的な業務よりも、人材管理や組織運営に関わる業務に重点を置くことが多いポジションです。
エンジニアリング組織を拡大し、強化するための基盤作りとして、採用が重要な業務の一つです。エンジニアリングマネージャーは、組織の課題や目標をもとに採用計画を策定し、候補者の選定や面接を行います。適切な人材を迎え入れることで、組織の能力を向上させることを目指します。
また、組織の成長を支えるには、エンジニアの評価と成長支援が欠かせません。エンジニアリングマネージャーは、チームで評価基準を定め、それに基づいてメンバーのパフォーマンスを評価します。評価だけでなく、定期的な1on1を通じてメンバーにフィードバックを提供し、個々のキャリア成長やスキル向上を支援します。さらに、業務上の課題や不安を解消することで、エンジニアが業務に集中できる環境を整えることも重要な役割です。
一方で、会社や組織の方針によっては、技術的な意思決定に関与する場合もあります。直接的に手を動かして開発を行うことは少ないものの、プロジェクトの技術選定や設計、アーキテクチャの策定といった上流工程に関与することがあります。これにより、プロジェクト全体の方向性や成功に寄与します。
エンジニアリングマネージャーは、組織の運営・成長と技術力の向上の両面に寄与する役職です。採用、評価、フィードバック、環境整備を通じてチームを支える一方で、必要に応じて技術的なサポートも提供し、エンジニアリング組織全体の成果を最大化します。
テックリード
テックリードは、高い技術力で開発をリードし、チームの成長を支える重要なポジションです。単に自身が優れた技術を発揮するだけでなく、その技術力を活用してチーム全体の開発力を向上させることが主な役割となります。
開発の現場では、設計やアーキテクチャの策定に深く関与し、高度な視点からプロジェクトを牽引します。また、解決が難しい技術的課題に取り組むことで、チームの壁を取り除き、スムーズな開発を実現します。さらに、メンバーが開発の中で直面する課題については、相談役として技術的なサポートを提供します。
加えて、テックリードはメンバーの育成にも力を注ぎます。経験の浅いジュニアエンジニアのスキルアップを支援するために、知識共有や1on1を行い、成長を促します。このように、個人の技術力だけでなく、他のメンバーとの連携を通じてチーム全体の開発力を底上げすることがテックリードの役割です。
IC(Individual Contributor)
IC(Individual Contributor)は、マネジメントの責務を負わず、開発や技術的な課題解決に専念するポジションです。テックリードとの違いが気になるかもしれませんが、大きな相違点は「部下を持たない」ことにあります。テックリードは技術力を活かしてチームを牽引し、メンバーの育成や技術的サポートを担いますが、ICは純粋に個人の技術力を発揮して成果を出すことにフォーカスします。
ICの役割は多岐にわたり、たとえば難易度の高い技術課題の解決、専門分野における深い知見の提供、新しい技術の導入といった「職人的な役割」を果たします。特に、チーム内で他のメンバーが対応しきれない領域において大きな貢献をすることが期待されます。
日本では、IC(Individual Contributor)のポジションはまだ一般的ではなく、一部の企業(メルカリ、LINEなど)に限られています。そのため、ICとしてのキャリアを目指す場合、現在所属している企業や志望する企業にこのポジションが用意されているかどうかを事前に確認することが重要です。
まとめ
WEB系エンジニアのキャリアは多岐にわたり、それぞれのポジションに求められるスキルや役割が異なります。エンジニアとして技術を磨き続けるキャリアパスもあれば、マネジメントやリーダーシップを発揮してチームや組織を牽引する道もあります。プロダクトマネージャーやプロジェクトマネージャー、エンジニアリングマネージャーといったマネジメント職は、技術力に加えて人材管理や戦略的思考が求められます。一方で、テックリードやICのように技術のスペシャリストとして活躍するポジションもあり、それぞれに特化したキャリアがあります。
将来的なキャリア像を明確にし、それに合致するポジションを理解しておくことは、転職やキャリアアップの際に非常に重要です。自身が望むキャリアを歩むために、どのようなスキルを身につけ、どの役職を目指すべきかを早い段階で考えておきましょう。これが、エンジニアとして長期的に充実したキャリアを築くための第一歩です。